
昔ながらの工法の良さに気づき始めた40代…。
2022年の夏は記録的な猛暑となり、我が家でも24時間エアコンがフル稼働する生活を強いられました。
身体がどうにかなってしまいそうな暑さと共に、私の住む地域では湿度も非常に高く、室内でもムシムシと漂う熱波に常に蒸されているような感覚で本当に身体に堪えました。
もちろんエアコンの除湿機能もフル稼働させていましたが、エアコンが効いている部屋はそれなりに快適でしたが、家事や用事で別の部屋に入るとまた不快な暑さと湿度が襲って来ます。
私の自宅はとあるハウスメーカーのプレハブ工法の一軒家ですが、真夏の時期は家自体がカンカンに熱されている感じで、いくら断熱性能に優れていても家自体が熱を帯びているので、エアコンの利かない部屋は地獄のような暑さとなります。
そんな猛暑な時期、用事で久々に実家に帰省した時の話です。
実家は、高齢の母が普段生活している部屋のみ熱中症対策でエアコンを効かせているのですが、複数あるエアコンの入っていない部屋に立ち入った際に
「あれ?私の自宅より暑さを感じない!」
と思い、少し驚きました。
もちろんあの暑さでしたので、エアコンが無いと生活する事は厳しいと思いますが、暑くても湿度が低く感じられ、ムシムシと蒸されているような不快感が無かったのです。
私の実家は築50年以上の、昔ながらの工法で建てられた木造住宅です。
外壁は昔の住宅に良く用いられていた「はつり仕上げ」と呼ばれる凸凹した手触りのモルタル塗りです。
内壁は小舞と呼ばれる下地に土壁を何層にも塗る、昔ながらの土壁工法です。
床材は台所と洋室以外はすべて畳。
窓にはすべて内障子が付いています。
屋根は勿論瓦屋根です。
50年前では一般的だった昔ながらの木造で、非常にクラシックな昔ながらの日本家屋その物です。(外壁がモルタル塗りなので多少洋風にも見えます。)
そんなクラシカルな実家ですが、若い頃は古びていて手入れも大変なこの日本家屋がとても嫌いでした。
家中が土壁なので、掃除をしてもしてもどこかの壁からポロポロと壁材が落ちて来る事もあり、掃除がとても大変でした。
また、畳も手入れが大変で、掃除機も目に沿ってかけなければ綺麗にならないし畳がすぐダメになる…などと母にお説教される事もあったり、マメに掃除をしないと内障子の桟に埃がたまるなどとにかく掃除に時間がかかる家でした。
土壁の内壁も、何だか暗くて地味な雰囲気でしたし、外壁のモルタルもひび割れている所があったりして何となく綺麗さが無くて嫌でした。
そんな実家に久々に帰ってみて、気づいたことが
「真夏でも不快なほどの湿度を感じ無い!」
と言う事実だったのです!
土壁は調湿性に優れていて高温多湿な日本の夏にぴったり!
なぜこの家は、最新の工法で建てられた私の自宅よりも不快な湿度を感じ無いのか…それはやはり昔ながらの土壁工法にあるでしょう。
私の実家は、現在のなんちゃって珪藻土や漆喰風塗料をもちいた形だけの塗り壁工法と違い、本物の土壁です。
何層にも渡って天然の土が塗ってあり、その工法が家中の壁に用いられています。
その為、壁自体が自分で呼吸し、湿度が高くなればその湿度を壁が吸湿してくれるのです。
なので、私の実家は湿度を感じにくかったのでは無いかと推測します。
また、現代の断熱工法には及びませんが、保温効果も多少あるので冬は暖かさを持続出来ます。(ただ、アルミサッシが旧式の物で断熱性能が皆無なので、窓周りから冷気が入り込んできますが…。
私は昔リフォームの仕事していたことがあったのですが、当時から土壁の手入れの不便さが故に、土壁をクロス張りの壁に変えて洋室に改造して欲しいと言うお客様が多かったです。
当時は私も若く、クロス張りの洋室の方に価値を感じていたのでそれらの依頼を断る事は当然ありませんでした。
しかし、高温多湿な日本の夏にぴったりの自分で呼吸する土壁を、あえて日本の夏に向かないクロス張りの洋室に改造してしまった事に、仕事だったとは言え、今になって後悔の念が湧いてきました。
もし今、昔ながらの土壁のお手入れに困って土壁をふさいでしまいたいと思われる方がいらっしゃいましたら、その行為は実は土壁自体の自然の呼吸を無理やりふせぐ事と同じであり、家自体の呼吸をも止めてしまう行為なのかもしれない…と言う事を一度よく考えてみて下さい。
また、少し先述しましたが、現代の工法で良く用いられる「漆喰風塗料」の事も少し考えてみたいと思います。
最近、健康志向の住宅を望む方が多く、新築住宅の内壁は漆喰などの天然の塗り壁にしたいと希望される方が増えているようです。
しかし、最近の漆喰は私の実家で用いられているような本物の土壁の上に漆喰を塗る工法ではなく、普通のクロス張りと同じ、石膏ボードと言う何の吸湿性も無い下地の上に、漆喰風の塗料を薄く塗っただけのイミテーション漆喰が殆どです。
ですが、さも本物の漆喰壁と同等の吸湿効果があるかのように謳い、価値のある工法を用いているかのように見せかけている業者さんも多いのです。
もちろん漆喰風塗料自体にも少しは吸湿性があるので、普通のビニールクロスよりはましでしょうが、私の実家のような何層にも渡った厚みのある土壁が湿度を吸ってくれるのでは無く、たかが数ミリの漆喰風塗料で昔ながらの土壁と同じような性質がある訳がありません。
高温多湿な日本の夏にぴったりなのはあくまでも、小舞と言う下地を用いて何層にも天然の土を塗って仕上げた昔ながらの土壁工法のみです。
何となく土壁や漆喰と言うと健康に良さそうで、メリットが高いイメージがありますが、現在のイミテーション土壁や漆喰壁には本当の調湿性は私は無いと考えていますので、検討される際には充分お気をつけ下さい!